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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

土に寝、木の洞にひそみ、食物も火も用いない物ばかり食っていたらしいことは――そのボロボロな衣服や、素足の血泥や、そして急に獣じみてきた眼つきにも、わかる。

学問、良識のあるかれ。――文章得業生をも属望されていた秀才とは、これなのか。

こんなにも、あとかたなく、身にとどまらない才学とは、ゆめ、思わずに、ひとを衆愚と視、誇を高うしていたかれだろうに、おもかげもない。

あるのは、とにかく生きている――歩けばうごく生き物の――いのちがあるといえるだけである。

チチ、チチ。小鳥の音は、よく耳に透る。兎や鹿を見れば、親しまれる。盛遠は次第に山の鳥獣たちが、自分の仲間に思われていた。――が、ガサとでも人間の気はいに襲われると、満身の毛は、すぐ針になった。

『――来たなッ』

抱えているまろい物を、かたく持ち直したまま、しばらくは、虹のような眼気がおさまらない。

かれの狩衣の片そでが、そのまろい物の包みに用いられていた。あの夜以来、かれが、かた時も手ばなさない袈裟の首級にちがいなかった。露や土にまみれ、にじみ出た血しおは漆みたいに干乾びている。――あまつさえ、十数日を経ているので、異臭をもってきたことは、いうまでもない。