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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
けれどかれは、夜も抱き、昼も抱き――抱いて、とろとろと、まどろむときは、夢のなかに現身の袈裟をみた。
袈裟は、かれだけには、いまも、容色を変えていない。私語するときの衣ずれや、においや、体温すらも、まざまざと、かれにはわかる。ひたと、身を寄り添うてくるのでもあった。――かれのまくら元には、朽ち葉に巣をつづる土蜘蛛がはい、陽をみぬ菌が妖しく生えならんでいようとも、それはかれの事実ではないのだ。かれは思いのまま仙窟を夢のなかに呼び降ろした。上西門院の花園に、かの君もまだ稚く、自分もまだ小冠者であった日の、女蝶男蝶のようなふたりがチラチラ相会うのである――。あわれ年ごろ恋い痩せの男の、狂い死にをも、見すごし給うか。この苦患を救いたもうもの、君をおいて、あらじを、あな、つれなき君かな。なんとて、渡が妻にはなり給える。かりのおん情たりとも、一夜、まくらを交わし給えや。夫あるひとの垣の、あだし妻花を寝盗むの科、その罪業十悪を越え、無間地獄の火坑に落ちんもよし。何かは、この想いの苦しみにまさるべきかは。――盛遠は、夢に、うなされぬくのである。
炎に似た夢は、袈裟の睫毛をふさがせ、閉じたる唇を、舌もてあけ、袿のみだれから白い脛や、あらわな乳のふくらみを見たりする。