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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

どうして、ひとをうらやんで、自分ではせぬかな。わからぬのう』

『なかなか、やさしいことではござりませぬ』

『そうかのう。……山に住めば、都を恋い。都に住めば、山を恋う。アハハハハ……果てしがないかのう?』

『――あ。僧正。お描きかけの絵が、風で飛びちります』

『絵反古か。あ、放っとけ。……客人、きょうは、紅葉見か。歌でも、お拾いか』

『いや、仁和寺まで参りました。先ごろの、御幸のあとの、御用もおびて』

『ホ、そうか。よう競馬ばかり御覧ぜられるの。やがてものものしゅう、世をあげての、人間の悪さ競べにならねばよいが、武者所など、さしずめ、悍馬、奔馬、じゃじゃ馬などの、集まり所。……こわいのう』

ふいに、陰部屋をふり向いて、僧正はわめいた。

『童よ。いいつけておいた柿はまだか。――客人に、柿なともいで来て、もてなさぬか』

答えはなく、山荘の裏のほうで、何か、ひそひそ、人声がしていた。

と、庭をまわってきた青侍が、縁先にひざまずいた。――いま、近くに住む石切りたちが、色を変えて報らせに来たと、伝えるのであった。――それによれば、けさから、この付近に、異な風体の男がうろついており、狩衣の片そではやぶれているし、素はだしで、なんとも、腑に落ちないところから、それとなく挙動を注意していると、一たんは、槇尾の密林にかくれて、手に大事