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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

鶏師は、さすがに、構えが良い。

闘うまえに、小冠者の鶏の精気を疲らしてしまおうという戦法だろう。落ちつき払って、

『さあ、お立会、ただ見ていても、つまるまい。賭け召されい。なんぼうでも、賭けてこそじゃぞ』

と、戯れ口半分に、まわりの顔を、見まわしていた。

銭の音がさかんに始まる。たちまち、判者だの、胴元なる者があらわれている。だが、鶏師の鶏にばかり賭けてが多く、小冠者への賭けは、はかばかしくない。

『よしっ、あとは、おれが賭けた』

清盛は、つい、どなってしまった。自分の声にはッとしてから、ふところの金をあらためた。さきごろ、馬を売って酒を買ったときの残余を、父忠盛は、出せとも見せろとも、いっていなかった。それがある。

『できた』

判者が、いう。とたんに、眼ばかりになった大勢の顔が、さあっと、すごみをつつんで、地を掘るように、一点を見つめた。

『小冠者。おぬしの、鶏の名は』

『獅子丸。……鶏師、おまえの鶏は』

『知らないか。黒金剛ッていうんだ。ゆくぞ』

『待った。合図は、判者がするものだ』

『小僧、生意気に、本格をいやがるな』

鶏と鶏は、もう、首をつき出して、人間ならば、逆上っている血相に見える。