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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

――判者の合図。――パッと放つ。砂がとぶ。血のついた毛が、羽ばたかれる。生きるか、死ぬか。取るか、取られるか。

――その闘争は見ずに、見ている人間たちの眼ばかり観て楽しそうにしている老人があった。僧衣を着ているが、供の舎人をつれ、草履ばきで、つえのあたまに、顎を乗っけていた。

『……あ。鳥羽絵の僧正だ』

清盛は、あわてた。かれとて、つじばくちは、よいこととは思ってはいない。以前、院の上皇に召されて、鳥羽殿にも伺候したことのある人に見られたのは、なんとしても、ぐあいが悪い。

しかし、より以上、賭けものが心配だし、逃げもならず、そばの男の蔭にかくれかけた。とたんに、わっという声だった。勝負はついたものらしい。――勝った銭と、勝ち鶏の獅子丸とを、胸にかかえこんだ小冠者の影が、まるで翼のはえた小天狗のように、清盛の体をかすめて、一目散に、かなたへ馳け去ってゆくのが見えた。

『伊勢どのの小殿。伊勢どのの小殿。――どこへ行かれる』

『あ。……これは、僧正でしたか』

そらとぼけて、歩きだしたのに、清盛は、呼びとめられて、大いにてれた。

しかし覚猷は、今どきの若い者に、赤い顔をさせるようには、いわなかった。