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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
ただ、さすがに庭面は、主のゆとりというものか、この自然をよく生かし、掃除もとどいて清洒である。
『……おや。だれかいるな』
ヘイライひとり出て来なかったが、ふと、泉殿のほとりを見ると、姉妹ともみえるふたりの女性が、裳をからげ、そでもむすんで、白い脛もあらわに、流れで何か濯いでいた。
『あ。……ここの姫かしら。そうらしいぞ』
清盛はにわかに、きょうの使が、楽しまれた。
姉妹とすれば、姉なるひとと妹との、間の者が、さっきの小冠者にちがいない。――妹はまだうない髪の童女である。姉のほうは、さて、幾歳かしら。
『ははあ。糸を染めておいでなさるのだ。染桶があるし、勾欄から紅葉の木へ、濯ぎあげた五色の糸を、懸けつらねて、干してもある。……はて、何と訪なおう。おどろかしてもよくないし』
だが、かれが言葉もかけないうちに、幼い姫が、かれを見つけた。姉に何か告げている様子である。と思ううち、急にふたりとも、対ノ屋の方へ、走りこんでしまった。
あとには、水禽だけが、游んでいた。清盛は、腹が立たなかった。むしろ、よいいとまをもったように、流れで、手など洗い、曲がっている烏帽子を、まっ直に、正したりした。