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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『あまりなる御偏愛よ。かつは、世に聞いたこともない破格なる地下人の内昇殿のおゆるし。われら雲上の座に、かれら野臭い荒くれ者を、ただの一人とて、同座あること、さきに古例なく、末のみだれもいかが。――来るべき豊明の節会こそ、よい機なれ、忠盛めを、やみ討ちにして、果てこそ見む』

公卿たちの不平は、喧々ごうごうであった。

自分たち族党の地位栄花を守らせるために飼っていた爪牙の武士が、寵をえて、直接、上皇と結ぶようなことになっては、藤原一門の運命を危うするものという猜疑はすぐ起こる。まさに陰険な空気であった。

ところが、十一月二十三日の節会をまえにして、院中の悪謀みを、ひそかに、忠盛のもとへ、投げ文をもって、

(豊明の夜こそ、あやしき瞋恚のやみです。殿上とて、ゆめ、お心をゆるし召さるな)

と、報らせてくれた人がある。

『さこそと思われる。さもあらば、忠盛の進退こそ、弓矢人の証し。ただ、恥あるな』

かれは、期するところがあるらしく、笑っていった。

そして、当日には、束帯の下に、鞘巻の刀を佩き、あえて、見よがしに、参内した。

『……おるわ。来ておるわ』『あの憎げなるふてぶてしさよ』