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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
何もない板じきの一部屋には、松明りを灯皿にくべ、どこの法師たちやら、悪僧面が三、四人、遊女たちを、ひざへのせたり、抱えたりして、すでに飲み空けた酒壺が、幾つも、横に、ころがされてある。
『あ。先に帰ったな。……盛遠はおれを残して』
かれは、一そうあわて出した。例の、ぼろ直垂を着け、太刀を腰へつるすのも、あたふたと、縁伝いに、出口をさがした。
暗いし、戸惑い気味でもあった。何やら、足の先に、金属的な物音を蹴のこしたまま、逃げるように、戸口を出た。
すると、物音に、とび出して来た法師たちが、
『待てまてっ』と、口ぐちに、清盛のうしろで、わめいた。
『ひとの長刀を蹴たおしながら、肩そびやかして出て行くは、どこの何者だっ。待ちおろうッ、そこな小男』
清盛が振り向いた眼のさきへ、チカッと来たのは、すでに、言葉ではなく、白い長刀のひらめきだった。おそらく叡山かどこかの、屈強な荒法師の手練にちがいない。死神の手のように、それは迅かった。かれは一ぺんに酒気もさまし、宵の快楽も、あとの悩みも、消し飛ばして、夜風の中を、逃げていた。
枯れ草の生えた崩れ築土と、腕木も傾いた怪しげな屋敷門とが、眼のまえに来ていた。