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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

時子のきりょうや性質は、八点ぐらいとしても、かれが、満点を与えて、愉快におもったのは、姉妹のあいだの――今年十六という弟の時忠――あの小冠者であった。

『おいっ、獅子丸』と、わざと呼んだ。おもしろ半分に、松明を振りうごかしてばかりいた小冠者は、清盛の濁音をはね返して、間髪に、答えた。

『なんだ。ヘイライ』

『おや。おれは、布衣だぞ。ヘイライとはちがう。狩衣をみい』

『ヘイライに、毛のはえたのが、ホイだろ。なんだ、ホイ小父』

『おまえは、すれているな。街で、鶏合わせばかりやっているんだろ』

『小父さんだって、賭けたろ。同罪じゃねえか。うちのおやじ、何か、きいたかい』

『はははは。おれの卵みたいなやつが、ここにも一匹いやがった。おもしろいぞ、なんじは』

『何の卵だって』

『蛙の卵だよ』

『それじゃあ、お玉杓子じゃないか。獅子丸を抱いてきて、突ッつかせるぞ』

『あやまる、あやまる。おい、手を出せ――。ここは西七条の畷、おまえと、手を握っておこう。生涯の交わりのちかいに』

北山あたりから冬をもってくる風が、昼見たあわれな家いえへ、無慈悲な木の葉をぶつけてゆく――。清盛の影もよれよれに吹かれながら遠のいて行った。