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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

――自分が、六条へ馳けつけるまで、どうか、源五兵衛の身に、あやまちのないようにと、祈るような気もちで、馬を早めていた。

堀川者といえば、検非違使尉の手先のこと。坂東者といえば、源氏武者の代名詞のようになっている。

けれど、六条判官為義なる人に会ってみると、こわがられているうわさとは、まるでちがう。

いまでこそ、不遇な武族の家長にすぎないが、八幡太郎義家の孫、人がらはよく、品位もあり、話もわかる。年は、このとき四十一であった。

『……いや、よく分かりました。さっそく、調べさせましょう。さもなくてさえ、院の武者所と、こっちの武者どもとは、つねに、にらみおうているなどと、世評もうるさいおり、もし、仔細なくして、お召使を、投獄したものとあれば、捨ておきがたい曲事です。――おういっ、義朝』

為義は、廊をへだてた内庭の向こうの部屋へ、大声で、そう呼んだ。そこは、長男義朝の部屋とみえる。

時は、深夜にちかく、夜雨はあがって、ここ判官屋敷の屋根と、六条獄門の不気味な建物の上に、ありやなしの冬の月が、薄雲のうちに明滅していた。――おりふし、判官為義は、もう寝室に入りかけていたが、門をたたく音、その客といい争う番士の声などに、みずから起きて来た。