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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
『そうか。なんといっておいてくれたぞ』
『かりにも、大殿へ、うそをつく木工助のせつなさを、すこしは、お察しくださりませ。……堀川の叔父御さまのおやしきにて、和子様には、御腹痛で寝ておられました。……やがて、御腹痛もおさまれば、夜明け次第、お帰りに成られましょうと、かように、お答えしておきました』
『すまないすまない。じじ、かんべんしてくれやい』
厩の横の白梅が、氷の粒みたいに、夜空に滲みを描いていた。つんと、冷たい梅の香気にも衝かれて、清盛は顔を皺めた。……そして、涙が、木工助の肩へこぼれた。
いつのまにか、清盛は、じじの肩に、抱きついていたのである。木工助は、主君の子にそうされて、恐懼にかたくなっていた。だが、枯木のようなかれの肋骨の下にも、やがて烈しい感情が波打っていた。性来、泣き虫で多情な清盛の熱いものと、日ごろから、包みにつつみ、抑えにおさえていた老骨の中のものとが、弾みを得て、どっと、どっちも理性を破って、一しょに嗚咽し出した。ついには、声をあげて、ひとつ体みたいに、抱き縒れたまま、地へ、すわってしまった。
『わ、和子様よ。あなたは……あなたは、このじじを、さまで、お力に思ってくださいますか』