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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

ころげ落ちた清盛の古烏帽子を拾いあげて、その人の手に返しながら、木工助はなお、嗅ぎ撫でるように、かれのすがたを見まわした。

『もしや、喧嘩のちまたにでもと、取り越し苦労の限りもなく、寝よと、大殿に申されても、寝られたことではござりませなんだ。……でもまあ、ようこそ、ようこそ』

真実、木工助は、眼をほそめて、安堵によろこびほぐれている態だった。それだけになお、清盛は、かれの顔を、まともに見ることができなかった。

父は、寝ているか。まだ起きておられるか。

母は、どうしている?

清盛の心配は、ただそこにあったが、木工助は、かれのたずねもまたず、こう、なだめた。

『さ。何も、お案じなされずに、そっと、臥床へお入りなされませ。すぐ、寝屋のお内へ』

『いいのか、じじ。……父上のお居間へ、伺わなくても』

『あすの朝。御きげんを見て、じじも一しょに、お詫びに出ましょうほどに』

『でも、怒って、おいでだろうな。わしの帰りの、おそいのを』

『もとより、御立腹には見えました。宵のころ、木工助やあると、ただならぬ御気色で。……彼奴め、どこを、遊びほうけているやら、塩小路なと見てまいれ……との仰せに、じじめが、心得申して、ほどよう、取りつくろうておきました』