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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
義清が出家の動機というのが、かれには、どうにも、のみこめないのだ。
義清の従兄に、すこし年上の、憲康という者がある。
前の日、鳥羽院から一しょに帰り、みちみち、浮世の無常を語りあい、明朝、また憲康を誘い合わせる約束をして別れたとか。
そこで、義清は、約束どおり、翌朝、大宮の従兄の家へ、誘いに寄ったものだという。すると、ゆうべの道づれは、病の発作で、一夜のうちに死んでいた。やしきの奥からは、若い妻や、老母や、子どもらの泣きすする声がもれていた。――茫然と、門辺に立ったままな義清に――そのとき、奥の泣き声は――かれをして、ともに泣き悲しむことをさせなかった。反対に、人間の中では、毎日毎日、必然な約束ごととしてくり返される平凡な一事象にすぎぬものを、自分のすぐそばにも今、当然に起こっているにすぎない。――それをそんなふうに、静かに観る心を、はっと、自覚させられたというのである。
義清は、その日、その足で、まっ直ぐに、鳥羽院へ来て、致仕の旨を奏し、友輩に、別れもいわず、家へ帰ってしまった。
突然なので、院中のだれかれも、何が、不平か、何で辞めたのか、かれの心を、知るに苦しんだ。