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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

(かれは、武者だが、生得の歌人ぞ)

とは、上皇のおことばでもあったほど、お覚えもよかったし、院の障子絵に、経信、基俊、俊頼などの歌人とともに、一日十首を詠んで、かれも、御感にあずかったときなど、院のおん手ずから、朝日丸という太刀をいただいた名誉すらもっている。

なお、最近にも、右兵衛尉に昇官されているし、さらに将来は、かれをして、検非違使にも任じたい上の意向であるともいわれているおりなのに――と、人びとはみな、解けない顔をした。

家に帰った義清は、さすがに少し興奮はしていた。かれの若い妻は、一室のうちで、慟哭した。召使たちも、何事かと、きき耳たてていた。

すると、やがて、しいて平静を努めながら、義清は、その部屋から出て来た。――と、四つになる可愛らしい盛りのかれの女が、走り出して来て、父のたもとにすがった。義清は、こわい顔して、その幼い者の手を、いきなり振り切り、縁から庭先へ、突き落した。わっと、いたいけない叫びは、大地の怒りみたいに、父を恨んで、泣きつづけた。

――これが、平然と、聞かれるのでなければ、道心の門出は、いつわりであると、自己へいい聞かせつつ、かれは、小刀を抜いて、自分のもとどりを切った。