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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
(まず一、二年は、あとに残したわしの妻や幼な子を、見とどけてくれい。そのうえならば――)
と、容易には、許しもしない。――というよりは、源五兵衛の道心を、どの程度か、見ているのかも、しれなかった。
『お。……うかと、忘れておりましたが』と、源五兵衛は、やがて、一通の書面を、西行の前においた。
『待賢門院様の堀川のお局から、ついでのおり、お手渡しして給もれとて、使いの者が、お持ちになったのでございまする』
女の達筆は、読みにくい。
消息やら、歌やらが、こまごま葦手風に、書きちらしてある。西行は、炉の火に、かざしては、読み解くようなまゆをしていた。
――が、読みおわったあとは、なにか、思い入るように、榾の炎を、見つめたまま、いつまでも、源五兵衛と、黙りあっていた。
黙っていることが、労れになったり、空虚になるような、ふたりでもない。
待賢門院の女房のうちには、かれの、歌の友が多い。
堀川ノ局、二位ノ局、帥の局、中納言ノ局、紀伊ノ局――など、幾多の女性が、こんどの西行の発心には、みな、歌を寄せたり、消息をよこしたりしていた。
堀川ノ局の消息も、また、その一つといってよい。