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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
だが、これには、縷々と、べつに――自分たちが仕える待賢門院のわびしい起居のさまや、このごろのお歌などが、しるしてあった。女院には、あなたの御出家のうわさを聞かれて、御自身も、仏門にはいりたいねがいを、しきりに、おもちになった御容子です――などとも、書いてあった。
『さも、おわさめ……』と、西行は、思う。
遠からぬまに、それは、女院が好み給うと否とにかかわらず、起こりうることと、うなずけるのであった。
童女のうちから、白河法皇に寵せられ、後、鳥羽帝の中宮として立ち、生み給うた崇徳は、やがて上皇鳥羽から、わが子に非ず、だれかの子よ、と冷たい仰せをうけるなど――待賢門院のお立場は、たださえ、複雑な、御心と御心との、間にあるうえに、今度の皇位の廃立にあたっては、いよいよ、そのむずかしさを、当然に、加えていよう。
さしも、絶美といわれた一代の容姿も、なんと、短い誇りであろう。――西行の記憶によれば、お年も、四十路をこえておられる。
だが、哀れなのは、その女院の君よりは、女院に侍く数多な局たちにあった。もし、女院御出家のあかつきは、その人びとも、尼になるか、弱い女の運命を、世の流れに、ちりぢりにまかせて、いつかは行方も知れないことになろう。