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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

それの守備、鎮圧を勤めて、まず、禁門にことなきを得たという消極的な功労だけが、武者の功といえば、功であった。

いかに、何千という僧兵が、驟雨のごとく、大挙して来ても、それに向かって、武人は戦うことはできない。飽くまで、守備だけが任である。なぜならば、叡山も南都の大衆も、法令以上な法権をもち、朝威以上な、天皇上皇の信仰を、御輿や榊に、象徴させて、常に、無敵を誇りながら、示威の陣頭に、押し掲げて来るからであった。

『ほうき星が、毎晩、見える……』

『乾の空に、あれ、あんな大きな彗星が――』

と、街中の不安そうな顔が、果てなく、空の一方を、仰ぎあった。

旱つづきの、七月の夜毎に――である。

『なにかある。どうせ、吉いことではあるまいぞ』

ちょうど、興福寺の僧徒が、大和の金峰山と、もつれを起こし、一たん敗れた興福寺方が、さらに大兵を起こして、山を焼き打ちしたといううわさのつたわっていたときだった。

奈良から、朝夕に、早馬が入洛したり、六条為義の兵が、万一のため、宇治方面へ出て行くのを見たりしたので、夜々の彗星は、なおさら、妖しい予告に見えた。

街の不安もだが、彗星の変となれば、百官の朝議も、まことに、ゆゆしげである。