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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

同じ、院の武者所に、遠藤光遠というのがいる。かれは、同姓の武者盛遠の叔父にあたる男だった。

――もうあれから十八年も後になってのことだが、

『忠盛の長男、伊勢ノ平太は、そちと、学友だっけな』

と、前おきして、ある日、こんな秘事を、甥にはなした。

『むかし、上皇が愛された祇園女御を妻にいただいた忠盛は、今でも、あの女性が、月満たずに生んだ子を――平太清盛を――心から、上皇のおん胤と、思いこんでおるのかしらて。……そうだとしたら、あわれな者だ。実は、つい先ごろ、むかし、祇園女御と密通していたという男におれは出会った。もう年ごろ、五十ぢかいが、なお八坂の古寺に住み、八坂の覚然といえば、名うてな悪僧じゃそうな。それが、真の、清盛の父親だと、自分でいっておるのだからな』

『えっ。ほんとですか』親しい学友でもあるし、うわさには、白河の落胤らしいともいわれている友の秘密だけに、盛遠は、興味をもって叔父へ問い返した。

『叔父上は、覚然とやらいう男自身の口から、それをお聞き及びでござりましたか』

『酒の上だが、さる場所でな。……その覚然が、さも得意気に、もらしていたのをこの耳で聞いたのじゃ』