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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『はて。院のおはなしも、どこまでが、ほんとやら、どうも、正味には受けとれぬ』

と、陰ではいった。

理由を、いわせてみると――

『第一、あの夜以来、上皇は、祇園女御の許へ、ふっつり、お通いを絶っておしまいなされた。第二には、そのおりの功として、祇園女御を、忠盛の妻に、あっさり、お与えなされてしまったが、これもおかしい。……第三には、女御を賜わった当人の忠盛は、あれ以来、怏々と楽しまない顔つきだし、また、かれ自身は、雨夜坊主のはなしなど、一言も、ひとに話したためしがない』

『なるほど……?』

だれもが、変に思い出した。しかもまた、疑惑を、裏書きする事実も加わってきた。上皇から忠盛へ賜わって、今出川のかれのやしきへ、妻として、輿入れした祇園女御が、忠盛との同棲も、まだ十ヵ月に足らないうちに、男の子を、産んだといううわさなのだ。

『やはり、雨夜坊主の件は、上皇のつくり話じゃよ。あれは表面のことでしかない』

『では、その裏は?』

好奇な眼も、おたがい、そこまでは、触れあわなかった。かれらの良識としても、また、つきつめて行けば、問題は極めて重大なものにぶつかるという保身のおそれからも、ただ眼をほそめて、にんまりと、笑みすましておくことが、堂上生活では、賢明とされていた。