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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
『もう、もう……。さきほどのようなお悩みは、ふっつり、夢の中へ、忘れはてておしまいなされい。たとえ、真の父御が、たれであろうと、和子様だけは、まちがいなく、一個の男の児ではおわさぬか。手も脚も、片輪じゃおざらぬ。こころを太ぶとと、おもちなされい。天地を父母とお思いなされや。のう……それで、よいでは御座りませぬかや』
『じじ。うるさいよ。……もう去ねやい。おれも、考えないで、眠るから』
『おお、さすがは、さすがは。それでじじも安堵いたしましたわい。……では』
木工助は、もいちど、かれの寝顔へ礼儀をして、あとへいざった。そして、室の外から、そろりと、帳を垂れて、立ち去った。
――それから、どれくらいな時間を、熟睡したことか。
何しろ、寝たとなれば、いつも、正体なしの、清盛だった。
『……兄者人。……兄者人』
たれかに、ゆり起こされて、清盛は、しぶい瞼を、やっとあけた。小蔀の陽ざしでは、もう午ちかいように思える。
弟の、経盛であった。
兄のずぼらとちがって、公卿の子みたいに、神経質なその弟が、一そう深刻そうなまゆを近よせて、さっきから、起こしていたらしいのだ。