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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
清盛は、詫び入った。この母に、こんなにまで、愛執を感じるのが、口惜しいし、ふしぎでもあったが、単なる感情とはべつなものが、かれをして、狂おしいまで、そうさせた。
郎党の木工助は、かれにも増して、慟哭していた。経盛も泣く。清盛も泣く。――泣かないのは、冷たい夫婦だけだった。
『うるさい。泣くな』と、忠盛は、三人をしかって――
『きょうまでは、子たちのために、何もかも、忍んでは来たが、もう、わしも、わしの愚からさめた。おろかしや、平ノ忠盛も、ひとりの女人に制せられて、二十年の間、われとわが心を煩い通してしもうた。ばかじゃったよ、おれは。――平太、おまえのばかを、おれはしかれん。あははは。アハハハ』
もち前のとり澄まし方に、じっと堪えていた泰子は、忠盛が、自嘲を発すると、むかと、顔に血をうごかして、すぐ反撥して来た。
『なんですか、その笑いかたは。……わたくしを笑ったのでしょう。たんとお笑いなさい。いくらでも、ひとを嘲りちらすがよい。――上皇様が、世にいらっしゃるうちは、いくらあなたでも、こんなにまで、わたくしを辱めることはできなかったでしょうに。……とはいえ、わたくしにはまだ、上皇さまの御在世のときに、里親とおきめくだすった中御門様というものがついておりますよ。