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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

覚えていらっしゃるがよい』

『はははは』と、忠盛は、なおさら笑って、

『中御門殿へは、いずれ、御あいさつに出向く。よい女御を、長のあいだ、忠盛ごときへ、お持たせおきくだされたと』

『ようも、悪たいを……』と、かの女は、これをさいごの憎悪として烙き残すような眸で、忠盛をにらんだ。

『あなたこそ、このわたくしに、たくさんな子を産ませながら、ただの一日でも、はればれと、妻のわたくしを、楽しませてくれたことがありますか。……二十年、いやでいやでならなかったのを、ただ、子の愛にひかれて、このやしきにいただけなのです。――ところが、どこから聞いて来たか、平太と郎党の木工助が、夜明け方、廐の蔭で、しきりと、わたくしの陰口をきいているではございませんか。――勿体なくも、亡き上皇さまのおうわさまで出していたのです。やれ、そのころの祇園女御の許へは、夜なよな忍び男が通っていたとか。それは、八坂の悪僧のなにがしであったとか。まるで、見てでもいたように、木工じじもいえば、平太もいいます。あげくの果て、清盛の真の父は、一体たれなのか……などと、正気とも思えぬことをいい狂っているふたりを、わたくしは、この眼とこの耳で、つきとめたうえでの、決心なのです。