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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『――よい方の例をあげようか。いまは罷めたが、検非違使をしていた源ノ為義。知ってるだろう。大治五年、あの人が、延暦寺堂衆の鎮圧にのり出したとき、四白の栗毛にのっていた。相模栗毛とよんで、人も知るかれの愛馬だ。――また、さきのおととし、鳥羽の院と、待賢門院さまも、お臨みで、神泉苑の競べ馬に、下毛野の兼近が、見事な勝をとったのも、たしか、四白の鹿毛であったわ』

『わかったよ。何も、迷信を持って、名馬に非ずと、いったのではない』

『おれは一番、あの青毛で、五月の加茂に、名をなしてみたいと野望しているのだが』

『ア、それで、怒ったのか』

『怒りはしない。迷信を嗤ったのだ。いや、迷信があるのは、かえって倖せかもしれぬ。おそらく、あの馬に、乗り人はなかろう』

清盛は、答えなかった。粗大な神経のもちぬしのようで、些事にも、妙に気をやむことのあるかれであった。渡は、かれがいい返辞をしないので、義清の方をふり向いた。――が、義清はさっきから、そんな話にはなんの感興もないように、おりおり、白い斑が、ひら、ひら、と舞ってくる桜の梢を見あげていた。

『あ。……院の御車が、あなたに見えた』