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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
それはかれが、武者の分際で、ただひとり、昇殿をゆるされているという一事にあった。
たとえひとりの忠盛でも、帝座にまぢかい殿上へ、地下人を上げるなどは、かれらの狭量と排他性がゆるさない。雲上の特権を破壊されると感じたのである。スガ目の伊勢こそは、油断がならぬ。上皇の御きげんをとることに妙を得た者と、そのころから、警戒されていたのだった。
事実、上皇の御信頼は、今にしても、変っていない。
忠盛が、あんなにも長い年月、ろくに出仕もせず、お召しのほかは、節会や式日の参向すら怠って来ながら、このごろやっと、久びさな勤務についても、上皇は、以前どおりな寵遇をかれに示された。そして、かれのことばは、まま、お取上げの栄に会う。
昇殿問題を、わすれていた公卿たちは、きのうの右近の馬場で、また、安からぬひがみや憎みを新たにした。
『いやはや、小うるさいことどもよ。何年たっても、変らぬは、公卿蛙の住む古池ではある』
忠盛は、今出川の屋敷に帰ると、きのうのうちに、ここの厩へ移して来た青毛の前へ立って、その鼻づらをなでながら、馬にいうようにつぶやいた。
『父上。きゃつらの陰口など気にしていたら、とても、都に生きてはいられません。