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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

自分のやしきと見くらべて、なんと、この家の清すがとよく調っていることだろう。柱も黒く、べつに調度の飾りとてないが、なんとなくつやがある。去年の暮とかに、妻を娶ったというその新妻のまめやかさの光りかもしれない。――清盛はうらやましい気もちで、ときどき、渡の口から出る女房自慢など聞かされて、やがて、座を辞した。

そして、武者屋敷といえばどこも同じな冠木門の袖垣まで、渡に送られて出て来ると、おりふし、外から戻って来たかれの新妻とばったり出会った。

留守におとずれた客と見て、かの女はすぐ被衣を脱って礼をした。黒髪やら、たもとやらに、焚きこめてある香のふくよかな気が清盛のあいさつをひどく唖らせた。渡は、妻をひきあわせて、

『や。ちょうどよいおりに戻った。平太、見知っておいてくれい。家内だ。――去年まで、上西門院の雑仕に召されていた袈裟ノ前と申すもの』

といった。そしてさっそくにも、すぐ立ち話で、青毛が移厩されてきた歓びを、この新妻に語り分けるのであった。清盛は、人妻ながら、なんとなく、はにかましくて、ろくな口もきけなかった。

菖蒲小路から木辻の暗い道を、かれは、火てったほおと、袈裟御前の面ざしばかり意識しながら、ふらふら戻っていた。