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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

『ヘイライさん、ヘイライさん。なんぞ買うておくれんか。花なと、ひもなと……』

六条坊門の中御門家の裏である。そこの雑人門をのぞいて、行商の女たちが、きゃッきゃッと騒いでいた。

ひも売り、花売り、ちまき売りなど、筥や籠を、髪の上に、乗せていた。女たちが、物を頭へのせて歩く習慣は、見なれていた。

『いらないといったら、いらないよ。うるさい阿女たちではある』

『ちまきは、どうやの、きょうは端午、五月のお節句じゃがの』

『その節句で、こちらも忙しくて、眼をまわしているのだ。……晩に来いよ。な。晩に』

『あほう! 好かんヘイライやの。ホホホホホ』

ところへ、奥から家職のひとりが出て来て、雑色たちのうしろからしかりつけた。

『これよ。また、物売り女とふざけおるか。けさのお湯殿守は、たれか。お湯殿の湯気が、熱うなって来ぬと、泰子さまが、中で、焦れていらっしゃるぞ。――はやく、火を見て来い』

怒鳴られて、ヘイライ仲間のふたりほどが、突ンのめるように、東の対ノ屋の方へ馳けて行った。

なるほど、湯殿の焚き口は、いぶり消えている。ふたりは、あわてふためいて、柴や薪を、くべ足した。