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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

何と意見してみても、ふたたび今出川へは、帰ろうといい出さない。

(四人もの、子をのこして)と、母性を衝いても、泰子には、さしたる愛着のもだえもないし、

(そもじとて、もう三十八という年では、いかに、美しかろうとて、そう、他家へ再縁も、なるまいに……)

と、暗に、かの女の自信を、諷してみても、耳をかす容子はない。

それどころか、かの女は、ここは、自分の里親の家と、まったく、生涯を寄せきっているふうで、いい部屋をいくつも占め、朝ぶろ、寝化粧、何不自由ない貴婦人生活を、それこそ、理想どおり振る舞っているのである。

勝手に、牛車はつかうし、召使はこき使う。夜は夜で、いずこの男か、忍んで来る様子も、あるとか無いとか――雑色部屋では、ヘイライどもにもうわさのたねになっている。

意見の程度を越えて、もし家成が、不平でもいおうものなら、かの女はたちまち色をなして、かえって、家成をやり込めてしまうのである。かつて、白河上皇の寵幸をうけた身であるという誇りが、かの女の心の骨格になっているらしい。すぐ、白河の御名を口に出す。そして女王の前の臣下のごとく、完膚なきまでに、家成ごときは、いい伏せてしまう。