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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
家成は、もうその愚にはコリている。近ごろは、いわぬに如かずときめていた。かの女がちょうど今の瑠璃子ぐらいな年ごろに、上皇のお好色を知って、祇園女御を取りもったのは、自分である。ために、そのころは、上皇のお覚えもめでたく、官職も枢要に就き、庄園(知行所)の地も増され、賜わり物も少なくなかった。――かの女は、それを忘れない。しかと覚えて無形の資産としているのだ。忠盛へ嫁いでからも、おりおり、ねだりごとに来ていたのである。
自業自得とはいえ、実に、えらいものを、しょい込んだと、家成はこのところ、楽しい日を失っていた。それにひきかえ、泰子の住む東の対ノ屋では、男女の客の絶えまがない。すご六だの、香の会だの、管絃の稽古だのと、より集まっている顔ぶれの中には、いつ、どうして、かの女と親しくなったものか、自分の闘鶏の友人までが、交っているのだ。
いや、家成が、もっとまゆをひそめたのは、瑠璃子への、感化であった。
瑠璃子も、いつか、かの女のとりこになってしまい、西の対ノ屋にいるときはほとんどなく、のべつ泰子のほうへ、入りびたっている。
館は、中央の大きな母屋を寝殿とよび、また渡殿という長い廻廊づたいに、東と西とに対ノ屋が、わかれていた。