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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
崇徳と申しあげ、まだ御十九の、青春の天皇であった。
鳥羽上皇も、臨御されている。上皇、女御をのぞくほかは、親王と諸卿群臣も、式のあいだ、みな立列していたが、終わると、おもいおもいに、桟敷の座につき、きょうの出走馬の判断や、騎者たちの評に、ざわめいていた。
ほかに、たくさんな幄舎があり、幕囲いが見え、そこには、右馬寮、左馬寮の職員やら、雅楽部の伶人やら、また、落馬事故や、急病人のために、典医寮の薬師たちまで、出張していた。
そよ風のたびに、加茂の宮の、青葉若葉の葉裏が光る――
清涼な風に乗って、伶人たちの奏楽が、万余の群集のうえをながれた。馬場の青草や埓門(柵の出入口)の幟の近くには、きょうをはれと競うたくさんな馬が、しきりに、悍気立って、馬丁たちを困らせている。馬は、音楽が好きなのである。決して、いたずらに暴れようというのではない。
ときどきおかしな光景が、馬と馬丁とのあいだに演じられる。口輪からふり飛ばされて、しりもちをついたり、また空走り(試走)の駒が、やんごとなき御座の正面で、ゆうゆうと尿をしたりすることである。
こんなとき、天皇も、御微笑されたり、お妃も、女官たちも、笑みこぼれて、ときならぬ百花らんまんの雲が揺らぐ。