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しん・へいけものがたり

新・平家物語

吉川 英治

02 ちげぐさの巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页

青空文庫

いまは亡き前の上皇白河ではあるが、白河に致されたその一事が、よほど御青年時代を暗澹たるものにし、いとも口惜しい、おん悩みであったにはちがいなく、いまなお、心の古傷のふといたむときには、

(崇徳は、白河の子じゃよ、身が生ませた子ではない……)と、すぐ仰っしゃる。

当然、この怨恨めいた上皇の口ぐせは、すぐ天皇のお耳にはいった。崇徳も、おもしろからず思われて、感情にむくゆるに感情の言をもってされた。――それが、その通りでなく、輪をかけ、誇張されて、朝廷と院のあいだを、たえず刺激しあっている。

刺激は、対立を育てる。

対立は、対立あるによって、生きる道と、成功とを妄信する一部の人間を、当然、培養してゆく。

朝廷で疎外されたものは、上皇のもとへ走って媚びへつらい、上皇に怒られたものは、天皇にひざまずいて、憐れみを、訴える。――それは、危険な、火事の火の粉にも似た飛び交いといってよい。

――だが、それは、なんと風雅な文化的表現につつまれて、そんなことがある世かと、怪訝なうそみたいに、おおいかくされているではないか。たとえば、きょう、加茂競馬の庭をうずめている霞のような群集を見わたしてもそうである。