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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
清盛は、さかんに、かの女のそでの蔭で、こぶしをもがいた。そして、上皇たちのいる桟敷の方をふり向いた。たしかに、父の姿は、こっちを見て立っている。
狂躁と、草ぼこりの中に、陽もうすずいて、その日の競馬も、終わりを告げた。
天皇、上皇は御座を立たれた。妃嬪、百官も、こぞって、おあとに従い、加茂の神前へ、歩を運んだ。
奏楽がおこり、奉幣の式があって、やがて、幄舎のうちの、賜餐となる。
この日の十番競馬や、十列の競馬に勝った騎者たちに、祝杯があげられ、親しく、おことばがかけられた。
しかし、本当の祝杯は、秋、あらためて、宮廷で行われるのが例である。
その儀式を、「負物貢ぎの式」といい、相互のあいだに賭けられている“負け物”――沙金、織物、香料などの多額な賞品を――負け方から、勝ち方の組へたいして、いんぎん、敗者の礼をつくして、贈呈するのが、約束となっているのだ。
もちろん、天皇、上皇、臨御のまえで、伶人たち奏楽のもとに、大々的に、勝敗の差別を明らかにする儀式であり、敗者から勝者への、負け物贈りのことが終わると、あとは、勝ち方の凱歌によって、一同、うちとけた酒宴となるのである。