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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
無礼講なので、陛下のまえでも、いろいろな隠し芸や、珍趣向の余興をこらす者も出るのであったが、中には、勝負をこのように平和化する作用にも溶けきれず、いつまでも、残念ばなしにこだわって、酒乱を演じたあげく、大内裏の小庭へ出て、腹を切って死んでしまったりするような気の小さい騎者もあったりした。
栄枯盛衰は天地のならい、栄々盛々はあり得ないこと。勝つは負ける日の初め、負けるはやがて勝つ日の初め――と、殿上人の輪廻観のそこには、やはり仏教が働いていた。だから、負け方の騎者が、小庭で腹を切ったという事件にも、かれらは、なんの驚愕もあらわさなかった。ある者は、腹をかかえて笑ったりした。
仏教のいう宇宙観や輪廻の哲理も、かれらはそれを、自己のうえには、ゆめ、考えてみなかった。かれら藤原氏の門流や末葉たちは、祖々以来、宮廷を中心に、史上例外な、栄々盛々の三世紀を遂げて来ているからだった。いまも、余恵にうけている華冠薫袖の身を、まだ不足ぐらいに思いなれているのである。きびしい、敗者の運命などには、出会ったことはない族党なのだ。勝敗の烈しさ、つらさ、仮借なさ、そんな運命は、理念では知っていても、実感には、分かるわけもないのだった。