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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
上皇の御きげんもよかったにちがいないが、父の面も、さわやかに見えた。清盛は、馬の口輪をつかんで歩きながら、星空の中の父を仰いで、なんとなく、胸が安らいだ。
いい出そうか、いうまいか。
清盛は、みちみち、迷った。――告げることは告げて、父の不快をぬぐおうと、わざと迎えの郎党を帰し、こうして、父とふたりだけの帰路を待っていたのではあるが――。
(もしか、昼のことを、父が、気づいていないなら、なまじ、お聞かせしない方がよくないか)
そうも、思うし、
(いや、父はたしかに、遠くから見ていたふうだ。何も、いわないのは、父の性格だから、内心の寂寥と不快さは、人一倍なものがあろう。この父を、ふたたび暗い人にさせてはすまぬ)
こうも、考え、とつこうつ、駒をひくよりは、ひかれて歩くかれであったが、やがて、今出川の家も近づいてから、思いきって、馬上を仰いだ。
『父上。――父上は、知っていましたか。きょう、加茂の競馬へ、もとの母も、来ていたのを』
『うム。そうらしいな』
『会いたくもなく思いましたが、実は、余り招くので、ちょっと、母の席へ行きましたよ』
『そうか……』と、忠盛は、スガ目を細めて、清盛を見おろした。