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しん・へいけものがたり
新・平家物語
吉川 英治
02 ちげぐさの巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 123,012 字 · 245 页
――ゆえに、かれらの知る勝負ごととは、すべて、遊戯のほかのものではない。敗者の痛涙も、勝者の狂喜も、ひとしく、一場の泡沫と見、あれも可笑し、これも可笑し、なべて酒杯のうちに溶いて飲まんかな人生。楽しまずしてなんの人生やある――というのである。そしてつねにかならず、自己を傍観者の桟敷におくことは忘れない。
そういう意味だけの一日。きょうの五月五日も、みな、生きの身の歓をつくして暮れ――ほどなく加茂の葉桜のうえに、夕月を見るころ、主上の鳳輦も、上皇の御車も、れきろくと、群臣の車馬をしたがえて、還御となった。
忠盛は、晩く、鳥羽院を退がった。
いつも、帰宅するころには、やしきの郎党、木工助家貞が、かならず馬をひいて、迎えに来ているのが常なので、武者所の供待をのぞくと、清盛が、駒をひかえて、たたずんでいた。
『木工助は?』と、たずねると、
『参っておりましたが、こよいは、平太がお口輪をとって帰るからと――先に、やしきへ、帰しました』と、清盛は、答えながら、父の前へ、あぶみを、すすめた。
『ああそうか。おまえも疲れたろうに、待っていてくれたのか』
忠盛は、かろく馬上の人となった。