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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

もし帯刀とその小姓をのぞけば、この近傍の庄屋とも変りはない。それほどに覇気や衒気のみじんも見えない人がらであった。

「これは」

と官兵衛は、却って、威容ぶらない敵将に、敢えて慇懃な心づかいをした。

「初めてお目にかかる。それがしども両名は、羽柴家の臣、黒田官兵衛」

「また、蜂須賀彦右衛門ともうす者」

挨拶をうけるごとに、宗治は、あいそのよい眼でうなずいた。――このぶんでは、この人なら、或いは、説き落せるかも知れぬ。ふたりの使者は、ひそかに唇をぬらしていた。

「蜂須賀どの。あなたからひとつ主命の趣を、宗治どのへおはなし下さらぬか」

官兵衛はこう譲った。正使格の自分から口を切るのが当然とは承知しているが、相手の温雅淳朴なすがたを見て、自分よりは年上の、そして気の練れている彦右衛門が、懇ろに利害を説いたほうが効果的とその場で考えたからである。

「では、それがしから申しあげますが」

彦右衛門は、辞退なく、こういうと、すこし宗治のほうへ膝をにじりすすめて、

「何事も腹蔵なく御談合を願えと、主人より申しつけられて来たままをただお伝えするに過ぎませんが、およそ益なき戦は避けられるだけ避けたいと願うのが主人の本旨にござりまする。