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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
にもかかわらず、その饗宴の第一日を前にして、突然、光秀の役目を解かれたのはどういうわけか。当の賓客たる家康はなお安土にいるのに、接待役を交代させられて、急遽、本国へ引き揚げて来た光秀には、いったい如何なる身辺の変が起ったのか。
左馬介も、這般の消息はまだふかく聞いていないが、今暁、ここの城門をたたく者があって、云々の由を、寝耳に聞かせられたときから、彼としては、
(さてはまた何事か、信長公の感情にふれたな)
と察して、光秀の顔をここに見るまでは、ひそかに胸を傷めていたものであった。
案のじょう今朝城門に迎えたときから、光秀のけしきはすぐれて見えなかった。しかしこの人のこういう深刻な陰を眉目に見るのは、左馬介としてさほどな驚異ではなかった。なぜなら広い世の中にも、自分ほど光秀の性情をよく知っているものはないはずと、彼は信じて疑わないだけの過去を持っていたからである。
十六、初めて加冠して、十兵衛光秀と彼が名乗った頃、左馬介光春はまだ九歳ぐらいで、名も弥平次とよばれ、元服の席のもようを珍しげに、母のそばから眺めていたものであった。
その加冠の儀式も、十兵衛光秀という名を選んで与えた者も、実に、左馬介の父三宅光安であった。