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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

あの仁はちか頃どうしておりましょう。とんとこの辺でも消息を聞きませぬが」

「先頃、甲州陣の折、ふと宿所へ訪ねてみえたが、あくる朝、夜もあけぬ間に、また飄然と立ち去ってしもうた。これはそのとき彼が画いたものだ」

「変り者ですな」

「いや、ひと口に、変り者というては当るまい。志節一貫、竹のごとく心の直な男だ。武士は捨てても武士らしい人物と思う」

「斎藤龍興の旧臣と聞いておりますが、その旧主にたいして、今なお節を曲げない点を、お賞めあそばすのでございますか」

「安土の御普請にあたって、右大臣家からお招きがあっても、彼のみはおことわりして、名利にも権勢にも屈しなかった。何ぞ、亡主の仇の障壁を画かんや――という気概を抱いておるものとみゆる」

そのとき光春の家臣が、何か用ありげに、うしろへ来て坐ったので、二人とも口をつぐんだ。

光春は振り向いて、何か――と取次の者にたずねた。手に一通の書簡と、奉書の嘆願書らしいものを重ねて、当惑顔に、そこへ控えた侍は、

「また御城門まで、横川の和尚の弟子が参りまして、強って、もう一応、この書面を御城主へ取り次いで欲しいと申し、何と刎ねつけても、命をかけて来たお使いですからといって、立ち帰りません。