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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
老齢に似もやらず、非常によく透る音声の持主である。そして白い眉もその唇もとも、屈托なくたえず微笑をたたえている。
それにひきかえて光秀は少なからず狼狽の容子であった。この明るい老人の眉には、眩しいような眼をさまよわせて、その答えも平常の彼とも思えないほど紊れていた。
「や。どなたかと存じたら……曲直瀬殿か。なんの光秀とて、徒然の日もおざる。数日来、坂本の城に滞在中とて、山でも少し渉りあるいたら、梅雨じめりの鬱気も少し散じようかと思うて」
「稀に、大岳を踏んで、自然に接し、気を洗うのは、何よりの心養、またおからだの薬です。……お見うけするところ、ひと頃よりは、心身ともおつかれの体に見うけられる。病のため、お暇を乞うて、御帰国の途中でもあらせらるるか」
針のように眼を細めていう。なぜかこの眼の前には欺けないものを感じさせられる。曲直瀬道三、名は正盛、字は一渓。当代かくれのない名医であった。
足利義輝がまだ室町将軍として健在であった頃から、すでに医として、道三の名は洛内に高く、その寵遇もうすくなかった。管領の細川も松永弾正も三好修理も、みな彼の手にかかっていたものだし、わけて禁中の御信任もあつく、余暇を施薬院の業に尽し、また後輩のために学舎を設け、高齢七十余歳というになお少しも倦むところがない。