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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

充分お気をつけなさい」

「では、どこが光秀の宿痾であろうか」

「お顔の色を見、お声を聞いただけでも、尋常な御容態でないことはすぐわかる。どこといえる宿痾ならまだしも、おそらく五臓すべてにお労れが来ているのではあるまいか」

「労れがあろうと仰せなれば、それは自身でも頷けます。年来の転戦、君側の勤め。いやもう、無理に無理を押して来た体ですからな」

「日向殿の如き知識の人へ、こういうのは釈迦に説法であろうが、よくよく御養生あるがよろしい。肝、心、脾、肺、腎の五臓は、五志、五気、五声にあらわれて、色にも出で、ことばにも隠せぬものでおざる。たとえば、肝を病めば、涙多く、心をやぶれば、恟々としてものに恐れ、脾をわずらえば、事ごとに怒りを生じやすく、肺の虚するときは憂悶を抱いて、これを解す力を失う。また腎弱まれば、よく歓び、即座にまた悲しむ。……」

じっと、道三は、光秀の顔色を見つめた。病人でないことを自信して光秀は、その言を聞こうとは思わなかった。強いて微笑に紛らわせていようとすると、不快になり不安になり、理由なき焦躁に駆られてくる。で、努めて答えずに、この老人とはやく別れる機会を見つけたいような面持であった。