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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
と、つけ加え、
「いずれ住持が、間もなく、御挨拶をかねて、御案内に罷り出でまする」
と、携えて来た湯茶を侍臣にあずけて帰りかけた。
光秀は、小荷駄の者が、簡単に張りめぐらした幕の陰に床几をすえて、いま食事もすまし、祐筆の者に、何か一通の手紙を口述して書かせていたが、
「妙心寺の僧よな。ちょうどよい使い。呼びもどせ」
と、小姓にいいつけ、僧たちが遥かにひざまずくと、祐筆の手になったその書面を託して、
「連歌師の里村紹巴の宅まで、この一通を大急ぎで届けおいてくれぬか」
と、いった。
そしてすぐ床几をたたませて、馬の側へ立ち寄り、
「いとまなき途中であれば、寺中の和上たちにもお目にかからず罷りこえる。よろしく申し伝えてくれい」
と、すぐ出発を令して立ち去ってしまった。
昼中は暑かった。仁和寺から嵯峨へとかかる平坦な道は、殊に乾いて、真夏のような草いきれが埃と共に馬の足もとから燃えてくる。光秀は黙々として、終始、渇も訴えなければ左右とも語らなかった。
が、彼は彼自身と、間断なく問いつ問われつしていたのである。天地間の何者も窺い得ないほどな大事を、彼は彼と対立して、胸の中に論争の激流を渦まかせていた。