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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

と空想したりして、自己の画策にふと恍惚となる寸間もあった。

この日、彼は午過ぎからわずかな従者を具して、城外へ出た。身装も軽装だし、常に左右におく重臣すら連れていない。けれど特に触れなくても、城門の将士にいたるまで、

「こよいは愛宕へ御参籠あるそうな」

と、その目的を弁えていた。

――中国出陣の前に、一夜を愛宕山に詣で、武運長久を祈り、かたがた、日頃の友を招いて、参籠の一夕を、連歌なといたして、大いに心養して参ろうと思う。

とは、きのう亀山へ来る途々からすでに、光秀の口からたびたび洩らされていたことばであった。

従って、このことは、

二十七日、亀山御着

二十八日、愛宕御参詣

二十九日、御帰城

というふうに、主人の予定行動として、家中一般へは、あらためて触れるまでもない儀と知れ渡っていたのである。

戦勝祈願の参詣といい、都から風雅の友を招いての連歌の催しといい、光秀の風懐と余裕を疑うものは誰とてない。日頃の光秀の人がらに照らしてみても、この際、

(お心ばえとして、さもありそうなこと)

としていた。

従者二十人ほどに、側臣五、六騎。鷹野に行くよりも身軽だった。