轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
こういう気転と、使うに物柔らかなことが、つい側へおく人間には程よいので、いつか十数年も使い馴れたが、見遣りながら、
「いや、庭へ出るのではない。措け、措け」
と、控えさせて、
「暑かったのう、今日は」
「まことに照りつけました」
「厩の馬はみな元気か」
「馬も少々弱り気味です」
「そうだろう。蜀の劉備ではないが、信長の髀肉もすこし肥えたからの」
と、ふと中国の空でも遠く思いやるか、夕星仰いで深い眼を澄ましていた。
蘭丸は何ということもなく、信長のその横顔をじっといつまでも仰ぎ見ていた。信忠もうしろに来て佇んでいたが、その人のあるも忘れて眺めていた。あたかも今生の名残のように。
もし彼の霊能がその霊に自覚を持っていたならば、その時のふしぎな心理と、何ものか肌にそそけ立つような感じを、特にもっと意識してみたであろう。後に時刻をかがなえば、まさにその頃、明智光秀の軍は篠村八幡を出て、老坂の麓あたりへ来ていた時分であった。
大台所から吐かれる夕煙が寺内にたち籠め始めた。一切の煮焚から炊ぎや風呂も薪である。宵にかかる前の一刻はここばかりでなく洛中洛外が炊煙をたなびかせているのだった。