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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

という檄である。

泉州鷺ノ森の本願寺一門、伊賀上野の筒井順慶、山陰の細川藤孝、その子忠興などの親族から、近畿のこれと思う有力者には、悉く飛檄した。

特に、大軍と思う先方には、光秀自身、筆をとって書いた。いま秀吉と対峙している中国の毛利家にたいして、直接、毛利輝元へ宛てて、その檄文にもいちばい想を凝らした。

「原平内と、雑賀弥八郎を呼べ」

持たせてやる使いの者まで、彼自身が名ざして、数ある家中のうちでも一かどの士と恃める男を選んだ。

原平内という士は、もと山中鹿之介の部下で、尼子再興のため、光秀を介して信長へ働きかけ、以後久しく明智家へ寄っていたいわば客臣ともいえる筋目の者だった。

が、尼子一族も主人鹿之介も、中国の戦いに先駆して、織田勢の至難な先鋒をつとめていたにかかわらず、ひとたび毛利の大軍が、その孤塁をつつむや、信長の令は、前後の懸引と利害の大小をにらみあわせて、鹿之介たちのたてこもっていた前衛基地上月の城に、秀吉の救援をとどめ、みすみすそれを敵中へ捨児としてしまった。ために、尼子氏は絶え、鹿之介も死んだ。

そのときの織田方の仕方を、ゆるすべからざる不信義、また無情なりとして、以来、原平内の信長にたいする恨みというものは骨髄に徹していたのである。