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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

日頃の教養か、ゆうべの茶道の心態が役立ったのか。それとも夙に中国の役に参陣して、秀吉などと共に多少生死の境を味わった戦陣生活の賜ものか。

そのどれもみな彼を教養したものの一つではあろう。けれど全部とはいえない。むしろ根本的なものは、彼の生れた家の家風と血液にある。

ひとたび旗を中原に立ててからの彼の父信長という人は、いずこに戦っても、一戦果せば直ちに上洛して禁門に戦果を奏し、国のよろこびあれば歓びを闕下に伏奏し、日本の武威ととのえば馬揃えをなして上覧に供し、四民に示すに禁裡の造営をもってし、その石を運ぶにはみずから石に乗って群集に石を曳かせ、麾を振り、そして事実を見せて、大君に仕え奉ずる臣子の楽しみと歓喜とを大衆に教えもし、自身もしかと信念していた人であった。

時人の一部には、いや後の或る史家なども、彼のそうした行動をさして、信長の勤皇は、人心収攬の一策であり、政治的に皇室の尊厳を認めて、功利的にそれに努めたものであるなどという評を下している者もあるが、これは政治経世の業を視るに、すべてを時の司権者の策であり、理智の略でありとする利口者の見解であって、日本の臣民大衆には、君臣ひとつのながれもなく、それに因る情念もなしとする謬見に過ぎない。