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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

村井春長軒も、唐橋門の下で討死にした。

しかし明智勢がもり返せば、また忽ち鉄門を閉めてしまうし、石垣は所詮、攀じのぼる術もないし、寄手はあせるほど犠牲を増し、また攻め疲れるのみだった。

裏門の搦手でも、同じような戦況がくり返されていた。かくて午近くなるほど、暑さも加わり、石垣も焦げ、甲冑も焦げ、こぼるる血しおもすぐ黒くなった。

「ここに引きよせられたまま、日を過しては一大事である」

光秀は焦躁した。馬を曳かせて跨がると、自身、本陣を出て、濠ばたを半巡した。たちまち城のほうから彼を狙って小銃弾や矢が集まってくる。左右の者が諫めるまでもなく、光秀はすぐ引っ返して来て、

「城の北隣りに見ゆるあの大屋根は、たしか近衛殿のお館であったかと思う。三左衛門、一走り走って、御挨拶いたして来い。しばしお屋根を、拝借いたしたいと」

御牧三左衛門をそれへさし向けるとすぐ、荒木山城守、奥田宮内の二将に、

「弓組、鉄砲組をひきつれて、あの大屋根へのぼらせ、城内へ矢弾を撃ちこめ」

と、命じた。

この策は、的確だった。そこへ登ると、平城なので、充分、内部へ狙い撃ちができる。城中の兵には、たしかに致命的なものだった。