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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
「なぜ逃げのびて行かぬか」
「はい」
「はいではない。そうこうするうちに、機を逸しように。……早く去れっ」
「はい……」
「いうことをきかぬやつだ。わしの主命だ。落ちて行ったとて、卑怯とは誰もいうまい」
「せめて、御最期なりとも、見届けませぬうちは、なんとしても、退きかねまする」
「まだそんなことをいっておるか。……死は必定だ。もののふの死にふたいろはない。無益に時を移すよりも、わしのいいつけたことを完うせい」
「……では、これをもちまして」
前田玄以は泣きながら出て行った。あとに残って死すべき人々は涙も持たないのに、生き長らえるべく出て行く者は涙にぬれて行くのだった。
彼のうけた使命は、
(そちひとりは、岐阜城へ赴いて、この急変を家中に告げ、わが子の三法師を守って、後図を善処してくれい)
という信忠の遺命にあったのである。
これほどな中でも、脱け出そうとすれば脱出できるものとみえる。前田玄以はどう落ちて行ったか、ともかく遺命を守って、後、三法師を奉じて清洲へ移っている。そしてなおずっと後年には、秀吉の五奉行の一員の中に彼の名が見える。
玄以を追いやると、信忠はそこに居合う旗本小姓たちの面々へ、