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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
「この中に隠れていれば?」
と、彼もまた、われにもあらず命が惜しくなっていた。
――という気持が、ふと、影のように映したとき、彼はもう日頃の武門のたしなみも一切無意義なものにしていた。さながら臆病者のごとく、釣瓶にすがって古井戸の中へ辷るが如く影を沈めてしまった。そこの冷気はいよいよ生の執着をつのらせ、急にわくわくと総身がふるえて来た。
半刻も経ったろうか。もう剣槍のひびきもなく、館もあらまし焼け落ちたかと思われる頃、井戸のふちで明智の兵の声がした。
「や、いるぞ、一匹」
「井戸の中か」
鎌田新介は、南無三と思ったが、飛び出すこともできなかった。上の兵は覗きこんで、
「いるいる。たしかに一匹潜んでいる。どうせ、獣のようなやつだ。なぶり殺しにしてやれ」
三、四本の槍さきが、井戸の中へ逆さに向けられた。どぼんと高い水音を深い闇の底に聞くと、明智の兵はどっと嗤った。「いのち」こそ、ただ捨てどころ一つで、その生涯の美も醜もきまる。末代、その人間も価値づけられる。
鎌田新介とて、一かどのさむらいに間違いなかったろうに、可惜その「いのち」を死に際の寸隙に惑わしめたため、逆臣と世間でののしる明智の部下からさえ、