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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
おぬしのむかしの友松野平介はそんな男ではない。一たん流浪なすべき身を信長公に拾われ、今日ある御恩を、何で弊履のごとく捨てられようか。武門とはこうしたものだ。見よ、おれのさいご」
だっと、真っ直ぐに駈け出して来た。そして利三のそばまで、達しないうちに、むらがる敵刃と渡り合って、血けむる中に壮烈な戦死をとげた。
「惜しい。実に惜しい男を」
と、利三にも光秀にも、後までしきりに惜しまれたが、その松野平介も、もし利三に誘われて、明智の陣門に降伏しても、そのいのちはやはり後十日のものでしかなかったであろう。なぜならば、明智そのものが十日の後には亡んでいるからである。
洛中はよく落首が立つ。殊にこんな騒乱のあとに宣伝される。奇蹟的に助かって逃げた織田源五郎長益だの、古井戸で犬死した鎌田新介などは悪しざまに謳い囃された。
その中で、たれか妙覚寺の土塀に、こんな今様めいたのを書いたのがあった。
いのちよく持て
いつくしめ
花とかおって散る日には
さっときれいで
あるように
又学舎
朝の一ときは、夜のままみな戸をおろして、死の街かのように、ひっそりしていた洛内の市民も、やがて午近くには、いちどに往来へ出はじめて、大路小路の辻々には、かならず人が群れているし、常には人通り少ない道筋まで、日頃の十倍もぞろぞろと人が流れてゆく。