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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

07 第七分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页

青空文庫

貸して進ぜるから太平記を読んでみるとよろしい」

部将の山部は辟易した顔つきであった。この老医家が朝野に重んぜられていることも知っているし、そのいうところも大所に立っていることばなので、自分たちの単なる威嚇や小理窟ではとても背が届きかねる。

で、やむなく彼は一案を出してこう促した。

「ご足労だが、ひとつそれがしと同道して、御本陣までお歩き下さらぬか。そして直接、日向守様へ何とでも申しあげてみられるがよい。それがまたいちばんよい方法とも考えられる」

「お供してもよいが、この通り大勢の生命をかかえ、猫の手もかりたいほど忙しい折じゃ。――あなたの部下を走らせて、ありのままを、御本陣に伝え、日向どののお指図を聞かせて下さい」

道三はこういって、それにも従わないのである。

残党狩りの一組は、部将の山部主税が、やむを得ぬ容子のもとに、

「然らば、後刻もう一度、沙汰に及ぶであろう。織田方の傷負いは、そのあいだ預けおく」

と、いうことばを機にして、どやどやと立ち去った。

――どうなることか?

と、ひそかに案じていたらしい織田方の負傷者たちは、やがて彼が縁を通って奥へ入ってゆく姿を、仰臥したままの眸で拝むように見送っていた。