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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
07 第七分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,903 字 · 400 页
ながるる涙も頬に乾いてしまうであろう程な長い瞑目であった。
酒井忠次や石川数正、以下井伊、榊原、本多などの人々も順々それにならった。そしてまたしばらく対坐のまま黙然と無量の感を抱きあっていた。
住持はしずかに去ってゆく。廻廊の下にいる警固の武士の槍のさきが見えるだけで、茶屋四郎次郎ひとりを除くほかは、主従水入らずの徳川家だけの者になった。
「……まだ、ほんとのような心地がせぬ。四郎次郎の口から慥と実状を聞いても」
家康はつぶやいた。声のうちにも嘆息も聞える。しかし彼のひとみは何らの懐疑もたたえてはいない。この大きな事実を誰よりも正確に見つめている眼である。そして少し若禿げを呈している大きなおでこが、どういう考えをいま抱蔵しているか、余人をして容易に窺わしめないような緊まりきった顔をしていた。
「……夢のように存ぜられます」
「なんとも。……右大臣家のお心を察すれば察する程、刹那の御無念。……どうあったかと思われまして」
人々もみな嘆声した。喞ちあえば限りもなく思い出がわく。安土でその人の舞を拝見したり、哄笑を聞いたのも、つい十日ほど前のことである。
だが、家康は、人々の余りな詠嘆は好まない容子であった。